長らく待ち望まれていた時計がついに登場した。ロレックスが新しいパーペチュアル パデローネを発表したのだ。非常にクラシックでありながら技術的にも高度な、瞬時切り替え式の年次カレンダーとムーンフェイズを備えた時計である。
チェリーニ コレクションに代わるパーペチュアル コレクションの第1弾として1908が登場してから3年。今回、新たなモデルが発表されたが、この新しいコレクションではさらに複雑機構を備えるモデルへと展開を広げた。ジェームズ・ステイシーはローンチのためミラノを訪れ、事前に時計を見る機会も得た。以下では、技術的な解説に加え、彼による実機レビューや競合モデルとの比較も紹介する。
まずは、ちょっとしたおもしろい話から始めたい。私の知る限り、これは歴史的モデルにコレクターが付けた愛称を正式なモデル名として採用した、初めてのロレックスだ。
ロレックス自身が新作のインスピレーション源として明示しているRef.8171は、幅38mmのフラットなケースと、わずかにドーム状のダイヤルを持つことから、「大きなフライパン」を意味するイタリア語の「パデローネ」(Padellone)という愛称で呼ばれていた。それだけに、ヴィンテージ時計収集の発祥地ともいえるミラノで、ヴィンテージ愛好家を大いに喜ばせるであろう時計を発表するため、ロレックスがこの地へ戻ってきたのは実にふさわしい。
2026年発表の新作、ロレックス パーペチュアル パデローネ。
たとえヴィンテージロレックスや8171の歴史を知らなくても、ロレックスの新作発表は常に大きな出来事である。とりわけ、Watches & Wondersのような大規模イベントとは別のタイミングで発表されるとなれば、なおさらだ。最近の例では、レース100周年を記念してサプライズ発表されたホワイトゴールド製のル・マン デイトナがある。あのとき、世間がどのような反応を示したかは皆さんもご存じだろう。皮肉なことに、ロレックスは今回、優れた防水性能を実現したオイスターケース誕生100周年の年にこの時計を発表した。一方、オリジナルのパデローネには防水性能がまったくなかった。期待どおり、新作はこの点を含め、あらゆる面で大幅な進化を遂げている。
ヴィンテージのロレックス Ref.8171 "パデローネ"。
パーペチュアル パデローネは、オリジナルモデルだけでなく、その防水仕様として登場したRef.6062、さらにチェリーニのデザインまでを思わせる現代的な時計だ。しかし、それだけではない。内部には、ロレックスにとってふたつ目となる新しい年次カレンダーが搭載されている。これは、2025年にランドドゥエラーとともに発表されたキャリバー7135およびダイナパルス エスケープメントの技術を発展させたものだ。解説すべき点は多い。ここから詳しく見ていこう。
ロレックス パーペチュアル パデローネのスペックと価格
ヴィンテージ愛好家が特に注目したいのが、そのデザインだ。新しいパーペチュアル パデローネは先代と非常によく似ており、サイズも近い。
ケースは直径39mm、厚さ12.2mm、ラグ・トゥ・ラグは45.1mmで、18Kエバーローズゴールドまたは950プラチナで展開される。1950年代初頭のオリジナルRef.8171は38mm×約13mmだったため、新作は幅がわずか1mm大きく、厚さは少し薄い。当時としては、すでにかなり大きな時計だった。パーペチュアル コレクションの標準仕様として、新型パデローネは50m防水を備える。
新しいパデローネには、オリジナルと同じくケースサイドに4つのコレクターが設けられており、付属の調整用スタイラスを使って曜日、日付、月、ムーンフェイズを設定できる。ただし、1950年代のオリジナルは、月ごとの日数の違いを自動判別しないトリプルカレンダーだった。それに対して新作は、過去70年間の技術的進歩を年次カレンダーとして取り入れている。曜日、日付、月はすべて午前0時に瞬時に切り替わり、調整が必要なのは年に1度だけである。
パーペチュアル パデローネのデザインは、細部に至るまで再構築されている。Ref.8171がポリッシュ仕上げのベゼルを採用していたのに対し、新作は1908のデザイン要素を踏襲し、ミドルケースの上にフルーテッドベゼルを配置している。そのミドルケースはわずかに膨らみを帯び、その曲線はラグの先端へと自然につながっている。ベゼルを除くケース全体はポリッシュ仕上げだ。
リューズにもフルーテッド加工が施され、内側から外側に向かって広がるように、わずかなテーパーがつけられている。このあたりのデザインは、チェリーニ ムーンフェイズ Ref.50535にも通じるものだ。
年次カレンダーとして、パデローネは曜日、日付、月を表示し、さらにムーンフェイズも備えている。なお、ムーンフェイズは年次カレンダーの定義には必須ではない。曜日と月は、12時位置の下に設けられたふたつの窓に表示される。日付は、先端に三日月形のポインターを備えた青い針が、該当する数字を指し示すことで表示する。
6時位置のムーンフェイズは、全体が見えるエナメルディスクで構成され、8171で採用されていた半開口式の表示から変更された。満月と新月にはメテオライトを用い、新月側にはダークブルーのPVD処理が施されている。そこにヴィンテージ風の顔と星をパッド印刷している。ムーンフェイズの表示には、前述のチェリーニと同様、開口部の上に矢印型のインデックスを備える。時針・分針・秒針はいずれも中央に配置され、各針はケース素材に合わせた仕上げとなっている。
そしてムーブメントだ。技術的な詳細は後ほど詳しく説明するが、これは瞬時切り替え式の年次カレンダーである。曜日と日付は午前0時に切り替わり、月末には月表示も同時に切り替わる。一方、ムーンフェイズは、約29.53日の月の満ち欠けの周期に合わせて、ゆっくりと回転する。時計は2月から3月へ移行する際の年1回だけ調整すればよい。これこそが、年次カレンダーと永久カレンダーを区別する大きな特徴であり、ロレックスが特許を取得したハプロスシステムの一部でもある。
このすべてを駆動するのが、新しいCal.7190だ。これはCal.7135に採用された技術をベースとしている(技術的な詳細はランドドゥエラーの記事へ)。ランドドゥエラーで注目を集めた中心的な技術が、ダイナパルス エスケープメントだった。脱進車からテンプへ直接動力を伝達するダイレクトインパルス式のエスケープメントであり、従来型エスケープメントに比べて摩擦による損失を抑えることで、長期にわたって安定した歩度を実現する。
エバーローズゴールドモデルは、ロレックスのセッティモブレスレット仕様とアリゲーターストラップ仕様の2種類が用意され、どちらも非常にきめ細かなテクスチャーを持つ、鮮やかなホワイトダイヤルを備える。一方、プラチナモデルはアリゲーターストラップのみで、ロレックスを象徴するアイスブルーのダイヤルを採用する。日付表示用のスケールが配されたダイヤル外周は一段高くなっており、外周部と中央部の境界には、直角の段差が設けられている。文字が印刷される部分は、それ以外よりもやや控えめなマット調のテクスチャーとなっており、ロレックスのロゴや「Superlative Chronometer」の文字の周辺にも同様の処理が見られる。
写真から気づいた、ほかの細かな特徴として、8171ではバーインデックスだった3時位置と9時位置に、アラビア数字を採用している点が挙げられる。曜日、月、ムーンフェイズの開口部には面取りが施されているが、ウィンドウの縁はダイヤル上の印刷部分と同じテクスチャーを持つ。一方、上部の開口部内部はダイヤルと同じグレイン仕上げとなっており、コントラストを生んでいる。
正規販売店へ駆け込み、購入待ちの列に加わろうとしている人は、1908のときの販売状況を思い出してほしい。あのモデルは市場への投入にかなり時間がかかった。
ストラップモデルにはいずれもデプロワイヤントクラスプが付属する。価格(※)は、エバーローズゴールドのストラップ仕様が5万9000ドル(約920万円)、プラチナのストラップ仕様が6万6200ドル(約1030万円)、エバーローズゴールドのセッティモブレスレット仕様が7万2800ドル(約1130万円)だ。
※編注;日本での販売価格・発売時期は2026年9月16日現在未定。
ロレックスのカレンダーウォッチ小史――パデローネの祖先、Ref.8171を含む
今年は年次カレンダー誕生30周年にあたる。パテック フィリップが1996年に初めて発表したものだ。ロレックスにとってはスカイドゥエラーに続くふたつ目の年次カレンダーモデルにすぎないが、同ブランドにはカレンダーにまつわる長い歴史がある。ロレックスは1945年にデイトジャストを発表し、より長い時間単位で時を知るためのシンプルな仕組みを導入した。そして驚くことに、そのわずか2年後にはRef.4767を皮切りに、ダトコンパックスモデルを発表している。
ヴィンテージのRef.8171に並ぶ新作のパーペチュアル パデローネ Ref.53505。
今回最も重要なのは、1949年に登場した短命なRef.8171トリプルカレンダーと、それに続いて登場した防水仕様のRef.6062だ。両者はそれぞれ1952年と1953年に生産終了となった。ロレックス デイデイトが登場する3年前のことである。8171と6062、そして今回のパデローネには驚くほどの共通点がある。そして、それこそが今回の狙いなのだ。ただし、これらの複雑機構をひとつのロレックスで見られるのは、実に73年ぶりである。
私はHodinkee Magazine Vol.4(2019年)でRef.8171の興味深い歴史について書いた。この記事は、1908の発売から数カ月後の2023年にオンライン公開された。当時からすでに、パデローネ、あるいはより正確には6062を意識したモデルが、近いうちに登場するという噂はあった。
ヴィンテージのロレックス Ref.8171。
もうひとつ注目すべきモデルが、前述のロレックス チェリーニ ムーンフェイズ Ref.50535である。2017年に登場したこのモデルは、チェリーニ ファミリーが完全に姿を消した現在でも、記憶に残っている人が多いだろう。50535は、1953年に6062が生産終了して以来64年ぶりに、ロレックスがムーンフェイズを搭載したモデルだった。
8171が注目された理由のひとつが、あの大きくドーム状に盛り上がったダイヤルだ。今回の新作では、よりフラットなダイヤルとなり、ドレスウォッチらしい印象が強まっている。当時のトリプルカレンダーは、ホワイトダイヤルに小さな「12」のアラビア数字、三角形のアワーマーカー、そして3、6、9時位置に四角錐型のインデックスを備えた仕様が一般的だった。ロレックスのプレスリリースには、4面のバーインデックスを備えた個体が掲載されている。12時位置に王冠、6時位置にドットを配置したものだ。このデザインは、同時代のパテック フィリップRef.2497の第3シリーズやRef.2438-1を思わせる。そして現在のパデローネにも、まさにそのスタイルのインデックスが採用されている。
ステンレススティール製のロレックス Ref.6062。Photo by Ben Clymer.
ただし、パデローネには6062のデザイン要素も取り入れられている。具体的にはダイヤル上の3と9の数字であり、防水仕様だった同モデルを象徴するディテールのひとつだ。この数字は1908にも採用されている。ヴィンテージモデルと比べるとより繊細で、ダイヤル上では少し大きく見える。また角ばった印象は弱いものの、「開いた9」などに当時の雰囲気が残されている。おもしろいことに、ランドドゥエラーの数字のほうが6062のものに近い。
いずれにせよ、かつてスポーティなスカイドゥエラーにしか搭載されていなかった年次カレンダーという高度な機能が加わったことで、この時計はロレックスの70年以上にわたる歴史をひとつにまとめた存在となっている。
2025年、モナコ・レジェンド・オークションズで620万ドル(約9億円)で落札されたロレックス Ref.6062。Photo by Mark Kauzlarich.
8171と6062にはさまざまなダイヤルバリエーションが存在する。これまでにも記事「ロレックス 6062 トリプルカレンダームーンフェイズがヴィンテージロレックスイチのスターであり続ける理由」などでその多くを紹介してきた。これは、ロレックスが今後、時間をかけながら派生モデルを展開できる余地が大きいことを意味する。
もちろん、ロレックスはひとつの世代のなかで大きな変更を頻繁に行うブランドではない。だから、ブラックダイヤルにダイヤモンドインデックスを組み合わせたような、カタログ外の仕様が登場する可能性も、ごくわずかながら考えられる。
実際、史上4番目と3番目に高額で落札されたロレックスとして知られる「バオ・ダイRef.6062」や、最近落札された別の個体には、そうした仕様が存在する。一方で、星形インデックスを備えた「ステッリーネ」ダイヤルや、SS製のモデルが市場に登場することはないだろう。少なくとも、現在のパーペチュアル コレクションは、そのための存在ではないように思う。
パーペチュアル パデローネに採用された技術革新を簡単に見る
2023年の時点で、1908がいずれこのようなモデルへ発展するのではないかという予想はあった。しかし、年次カレンダーを搭載したパデローネの登場を予感させる最大のヒントとなったのが、2025年にロレックスが欧州特許庁へ提出した、同様のデザインに関する特許出願だった。
特許番号EP4632499A1は、ロレックスSAが2025年4月9日に行い、同年10月15日に公開されたものだ。発明者としてValentine Pennestri氏とDenis Rudaz氏の名前が記載され、「瞬時ジャンプ式時刻カレンダーシステム」と呼ばれる機構について説明している。これは日付が1日のあいだにゆっくり動き、針が数分、あるいは数時間かけて日付を切り替える方式よりもエレガントなカレンダー機構である。ただし、当然ながら技術的な難しさも大きく、実際にこの方式を採用するブランドは少ない。
このようなロレックスのムーブメントを目にするのは、実に久しぶりだ。
というのも、この方式では、1日をかけてエネルギーを蓄積し、そのエネルギーを、通常は中間車、レバー、プログラミングカムなどを介して一気に放出し、各表示を進める必要がある。その結果、部品数が増え、ムーブメント内部の部品が密集し、しばしば厚みも増す。そして多くのエネルギーを必要とする。ロレックスは、これらの問題を解決するうえで大きく前進したようだ。以下、その概要を見ていこう。
まず注目したいのが、クロナジーエスケープメントだ。これは多くの点でスイスレバーエスケープメントに非常によく似ているが、歯車の歯形やレバー自体の形状に変更が加えられているように見える。
この特許技術が、ロレックス独自のクロナジーエスケープメントを搭載した時計に採用されると予想した人もいた。クロナジーエスケープメントは、伝統的なスイスレバーエスケープメントより15%エネルギー効率が高い。しかしロレックスはさらに一歩進み、今回の複雑機構を、昨年のダイナパルス エスケープメントの成果をベースに構築した。
これは、ロレックスの今後の技術戦略にとって非常に重要な意味を持つように思える。ダイナパルス エスケープメントはテンプへ直接動力を伝えるため、従来のアンクルを介する方式を省き、クロナジーエスケープメントより13〜15%効率の高いインパルスを実現する。つまり、従来のレバーエスケープメントと比べれば、約30%高効率ということになる。では、それは実際に何を意味するのだろうか。
摩擦を減らすことは、部品の長寿命化と動力伝達効率の向上につながる。後者は、より定量的に評価しやすい。ロレックスの高精度クロノメーター認定では、日差-2〜+2秒の精度が求められる。しかし、昨年登場したランドドゥエラーでは、ダイナパルス エスケープメントがロレックスにとってゲームチェンジャーとなった。そして、その成功を可能にしたのが、長年にわたり社内で進めてきたシリコン部品の製造技術の蓄積であり、その技術は今回の時計にも受け継がれている。
ダイナパルス エスケープメントには、シリコン製の部品が用いられている。中間車もそのひとつだ。
Cal.7140を搭載した1908では、クロナジーエスケープメントとシリコン製のシロキシ・ヒゲゼンマイが使われていたが、そこではシリコンの可能性が最大限に活用されていたわけではなかった。ダイナパルス エスケープメントを成立させるために不可欠なのが、ふたつの脱進車だ。ひとつはムーブメントの4番車から駆動され、もうひとつは最初の脱進車から駆動される。
しかし、このふたつの部品は二重の役割を担う必要がある。互いに噛み合う歯車であると同時に、独特の形状を持つ歯車として、レバーへ直接インパルスを伝えなければならない。その結果として生まれる非常に特殊な設計は、従来型の金属ではおそらく製造不可能だっただろう。しかしロレックスは、DRIE、すなわち深掘り反応性イオンエッチングを用いることで、この設計を工業規模で実現した。また部品内部を肉抜きすることで効率を高め、シリコン製の中間車を採用することによって、3万6000振動/時という高振動への対応に加え、シリコン製部品の採用によって磁場の影響も抑えている。
カレンダー機構についても非常に複雑な話になるが、重要なポイントは、瞬時切り替え式の年次カレンダー表示を構築するために必要なスペースを最小限に抑えつつ、他の時計に見られる「危険領域」、つまり日付を設定するとムーブメントを破損する可能性のある時間帯をなくし、さらに一般的なカレンダーよりも高いエネルギー効率を実現したことだ。これで終わりだろうか。
図版:特許 EP4632499A1より。
この特許だけでも、さらに4000語の詳細な解説を書けるほど内容が深い。ただし図1を見ると、ダイヤル側から見たカレンダー機構全体が確認できる。ディスク類もすべて表示されている。日付針(13)は中央軸A1から伸び、31歯のホイール(1)に取り付けられている。図2を見るとさらにわかりやすい。中央の日付ホイールにギア(11)があり、それに沿ってレバー(12)が設けられている。このレバーは回転軸A12を中心に日付ホイール上を約7°、つまり0.5mm動くことができ、月カムに接触することで、その月の日数を「読み取る」。
図版:特許 EP4632499A1 より。
月車(2)には、月の日数を判別するためのカム(22)が備わっている。カムの大部分は低い位置(22a)にあり、4カ所だけが傾斜して高くなっている(22b)。この4カ所が30日しかない月、すなわち4月、6月、9月、11月に対応する。指で数えてもいいし、カレンダーを見れば、その順番と頻度が分かるだろう。
この盛り上がった部分と月カム全体が、日付ホイール(1)のピン(12b)と連動する。そのため、レバー(12)は全体として回転できなければならない。月の日数の違いに対応し、30日から1日へ進めるためである。一方、フィンガー(6b)は月車を駆動し、切り替え後にはストッパーとして月車の行き過ぎを防ぎ、瞬時切り替え時に生じる力によってホイールが回りすぎるのを防いでいる。
図版:特許 EP4632499A1より。
これらの小さなレバーやカムをここまで微細化しながら、トルクに耐えられるようにする必要があることが分かる。しかし同時に、ムーブメントの厚みを増やさないよう、フラットかつコンパクトに収めなければならない。わずか数ミリの駆動車アセンブリー(3)についても、図4を見ると必要な部品数がいかに多いかが分かる。しかも、安全機構まで組み込まれているため、瞬時切り替え式カレンダーを実現するうえで極めて重要な構造だ。
ホイール(34)は香箱からの動力を受け取り、1日かけて1回転する。その上にはカム(33)と、それに接続された一方向クラッチ機構が収められている。この機構は「デバイス」を介して弾性爪(36)につながり、さらに上にあるホイール(37)へ動力を伝える。この構造によって、時刻合わせの際に針を逆方向へ動かしても歯車が滑ることができ、ムーブメント全体を逆回転させずに済む。これはムーブメントの破損を防ぐためだ。ホイール(37)の上にはフィンガー31、32、38が見える。これらが日付機構を進める役割を担う。狭い空間に大量の部品が詰め込まれていることが分かる。
図版:特許 EP4632499A1より。
瞬時切り替え機構についても、駆動車(3)とホイール(1)、(2)の関係を見れば理解しやすい。月の進行は日付や曜日よりも頻度が低いため、両者には異なる役割がある。駆動車が回転すると、その上のフィンガーまたはピンが日付ホイール(1)に接触し、日付を進める。さらに30日までの月の月末には、先ほどの圧縮されたレバー(12)に接触することで1日余分に進める。一方、側面のフィンガー(38)は曜日を進める。しかし、これらすべてを一瞬で動かすには追加のエネルギーが必要となる。
ここでアキュムレーター(4)が登場する。これは実質的にバネであり、長いアームを使って、1日のあいだ駆動車アセンブリー(3)のカム(33)に対してローラー(43)を押し続け、テンションを蓄積する。そしてちょうど午前0時になるとカムから滑り落ち、それまで蓄積していたエネルギーを一気に放出して、すべての表示を進める。こうして仕組みが分かると、ロレックスが公開した写真から多くの部品を読み取れるようになる。
Courtesy Rolex.
市場にあるすべての年次カレンダー機構を分解して比較したわけではないので、この解決策がどの程度画期的なのかを正確に判断することはできない。ただ、特許出願に値するだけの新規性を備えていたことは確かだ。そしてその技術は、高い効率、クロノメーター認定を受けられる精度、向上した耐久性を実現しながら、より高価格帯に位置する競合モデルよりもコンパクトなケースに収めることを可能にしている。
ただし、話を先に進めすぎた。残された最大の疑問は、今後ロレックスが同様の複雑機構の革新をダイナパルス エスケープメントを基盤として進めていくのか、それともダイナパルス エスケープメントとクロナジーエスケープメントというふたつのプラットフォームを並行して発展させていくのかということだ。答えは時間が教えてくれるだろう。
実機レビュー(ジェームズ・ステイシー HODINKEE本国編集長)
ここからは、マークに代わって私が引き継ごう。彼が新旧のパデローネと、そのあいだに積み重ねられた技術的進歩について説明してくれたところで、私はミラノのホテルの一室からこのセクションを書いている。
新しいパーペチュアル パデローネの3つのバリエーションを約1時間にわたって実際に試す機会があり、プレスリリースやブランドから提供された写真だけでは伝わりにくい、いくつかの実機ならではの印象をお伝えしたい。
3種類すべてのロレックス パーペチュアル パデローネを並べてみる。
デザイン言語とプロポーションから予想されるとおり、パデローネは先行モデルの1908によく似ている。今回のより複雑なモデルではケースが厚くなっているものの、1908よりわずか0.4mm薄くなった。ケース形状、ベゼルデザイン、トランスパレントケースバック、そして全体的なダイヤルの雰囲気まで、1908やパーペチュアル コレクションとのつながりが感じられる。1908のイエローゴールドモデルと同様、パデローネもエバーローズゴールド製のセッティモブレスレットとの相性が非常に良い。しかも今回は、たまたま私の手首に合うサイズに調整された個体が用意されていた。
複雑機構が加わったことで、ダイヤル上の余白がちょうどよく埋められている。ムーンフェイズは1908のスモールセコンドとほぼ同じ位置を占める。そこに日付表示用のポインター針と、12時位置下に配置された曜日・月のふたつの開口部が加わることで、パーペチュアル パデローネは兄弟モデルよりもバランスがよく、ひときわ完成度の高い印象を受ける。
伝統的な時計デザインの世界では、トリプルカレンダー表示は珍しくない。しかしパデローネは、3時と9時のアラビア数字、ダイヤル外周を取り囲むレイルウェイ式の日付トラック、そしてダイヤルのテクスチャーによって個性を加えている。白とアイスブルー、2種類のダイヤルでは、中央のダイヤルベース全体に豊かなグレイン仕上げが施され、その上にネームプレート、日付表示、ムーンフェイズが配置されている。写真では機能そのものほど目立たないが、実物を異なる光の下で見ると、この仕上げが一気に表情豊かになる。
どちらのダイヤルも明るい色調ながら全面がマットに仕上げられ、6時位置のムーンフェイズが自然と目を引く。ベースはエナメル製で、常に見えるふたつの月はメテオライトで表現されている。どちらの月にも、8171のクラシカルなムーンフェイズ窓からのぞいていた月の顔を基にした図柄が描かれている。
実際に腕に着けてみると、39×12.2×45.1mmというサイズを考慮しても、新しいパデローネは1908にかなり近い装着感だと感じた。基本的には、現代的な少し大きめの、ただし決して巨大ではないドレスウォッチといった感覚である。ベゼルが薄く、ケースが手首を包み込むような形状をしているため、時計全体のなかで、ダイヤルの存在感が際立って見える。見た目でも装着感でも36mmのデイトジャストほど小さくは感じない一方、39mmのオイスター パーペチュアルほど大きくもない。
1908用として登場したセッティモブレスレットを試したときと同じく、今回もブレスレット仕様こそ、この時計を最も楽しめる組み合わせだと思った。エバーローズゴールドとセッティモの組み合わせは、まさにこの時計が本来想定していた着け方のように感じる。ブレスレットは滑らかで薄く、手首の曲線に沿ってしなやかになじむ。そしてパデローネのミッドセンチュリー的な雰囲気にも見事に調和している。
時計そのものは決して極端に薄いわけではないが、シャツのカフの下に入れても大きな問題はなかった。ブレスレット仕様ではケースが手首にフラットかつ自然に収まった。一方、ストラップ仕様は新品だったため、手首になじむまでには、多少時間がかかりそうだった。それでも当然ながら、手首上ではより軽く感じられた。
機械の仕組みに興味を持つ者として、私は曜日、日付、月、ムーンフェイズを調整する4つのコレクターを試してみたくなった。ケースの左右にふたつずつ配置されており、左上から時計回りに、曜日、月、ムーンフェイズ、日付を操作する。付属のスタイラスを使って操作したところ、動きは非常に明快で、クリック感も良かった。
そしてロレックスによれば、時刻や月内の日付を問わず調整してもムーブメントに問題は生じないという。年次カレンダーを搭載するなら、非常に優れたイノベーションだと思う。簡単に設定でき、操作を誤ってムーブメントを壊してしまい、修理のために時計を送る必要がないからだ。
上段左から曜日、月。下段左からムーンフェイズ、日付。
総じて、これは1908のフォーマットを「機能を足す」ことで進化させた、現代的なロレックス カレンダーウォッチとして非常によくできたモデルだと思う。私は1908のギヨシェ、あるいはそれ以外の仕上げよりも、このグレイン仕上げのダイヤルのほうをはるかに好む。
3つのバリエーションはサイズから想像されるとおりの装着感で、セッティモブレスレットは相変わらず素晴らしい。そしてしばらく実物を見て写真を撮った今、私はこのダイヤルこそ、新しいパデローネの大きな魅力だと感じている。ひとつ望みを挙げるなら、 SS製モデルを見てみたかった。もし実現していれば、かつてSSで製造された8171の系譜にもさらに強くつながり、かなりおもしろい存在になっていたはずだ。
競合モデルについての考察(ジェームズ・ステイシー HODINKEE本国編集長)
ロレックスは、新しいクラシカルでドレッシーな年次カレンダーウォッチを発表した。先進的なムーブメントを搭載し、価格はレッドゴールド仕様で5万9000ドルから、最高で7万2800ドルに達する。これは高いのだろうか。高すぎるのだろうか。一般論としてはもちろん高額だが、年次カレンダーを求めるだけの予算を持つ層にとってはどうなのだろうか。ここでは、市場に存在する競合モデルのうち、雰囲気やコンセプト、あるいはその両方が近いものを見てみたい。
パテック フィリップ 5396R 年次カレンダー。
まずは年次カレンダーの本家ともいえるパテック フィリップのRef.5396Rから始めよう。パテック フィリップは30年前に年次カレンダーを発明し、5396Rはその系譜を38.5mmの現代的なケースに引き継いでいる。ローズゴールド仕様の価格は1099万円(税込)。この価格ではブレスレットは付属せず、防水性能はパデローネの50mに対して30mとなる。しかし、パテック フィリップによる複雑機構を手にできる。
次に挙げたいのがA.ランゲ&ゾーネのサクソニア アニュアルカレンダーだ。こちらはさらにドレッシーな方向性で、36mmのローズゴールドまたはホワイトゴールドケースに、高度な時計製造技術を凝縮している。価格は約7万5000ドル(約1170万円、日本では価格要問い合わせ)。パデローネより薄く、手作業による仕上げも多い。しかし、この価格帯、あるいはそれ以下でも、ブレスレットは用意されていない。
ブランパンも忘れるべきではない。カレンダー機構で豊富な実績を持つブランドで、現在はブランパン ヴィルレ カンティエーム アニュアル GMTをラインナップしている。レッドゴールド製の40mmケースで、ブレスレット仕様はないものの、第2時間帯表示も備えている。価格は446万6600円(税込)だ。
ブレスレット仕様の競合モデルが欲しいなら、パルミジャーニ・フルリエのトンダ PF グレゴリアン アニュアルカレンダーも候補になる。より現代的なデザインにローズゴールドケースを組み合わせ、42mmのケースに、自動巻きの年次カレンダームーブメントを搭載している。ケースと同素材のブレスレットが選べ、100m防水も備えている。価格は8万スイスフラン(約1520万円、記事執筆時点)だった。
最後に、より小規模ながら高い人気を誇るブランド、ローラン・フェリエとそのクラシック ムーンも挙げておきたい。ローズゴールド製で40mmのケースを採用し、デザインはパデローネに近い。ただし価格はさらに上がり、1754万5000円(税込)である。またロレックスより厚く、ローラン・フェリエを象徴するナチュラルエスケープメントも搭載していない。
以上に挙げた時計はいずれも魅力的で、それぞれ異なる年次カレンダーの解釈を提示している。価格帯は幅広く、パデローネより安価なモデルから、それを上回るモデルまである。もちろん、パテック、ランゲ、ブランパン、ローラン・フェリエは、ロレックスよりも高価格帯のセグメントに属するブランドだ。そこでは、より高いレベルの仕上げや作り込みを期待するのが自然である。
とはいえ、ロレックスが工業的な仕上げだけに終始しているわけではない。今回の新しいムーブメントについても、操作性、技術、スペック、クロノメーター性能のいずれにおいても、ロレックスは妥協していない。そもそも競合ブランドの多くは、カレンダー機構の精度すら明記していない。
新しいロレックスが、貴金属モデルで5万ドル台後半から6万ドル台前半、すなわち900万円台後半から1000万円台で始まることに驚くのも無理はない。ロレックスとしては高額だからだ。ただ、この時計の内容を考えれば、決して不釣り合いな価格設定ではないと思う。
ロレックスは、自社の基準を軸に価格を設定している。エバーローズゴールド製のブレスレット付きのスカイドゥエラーは945万7800円(税込)で、そこには年次カレンダーに加えて第2時間帯表示も備わっている。もちろん、SSモデルがどのような価格になるのかを見てみたかった気持ちはある。エナメルダイヤルのロレシウム デイトナの価格も忘れてはいけない。
今回のケースでは、新しいパデローネの価格設定は、現在のロレックスのラインナップのなかでの位置づけと、このセグメントで人気を集める他の選択肢を考慮した結果だと見てよいだろう。
結論(マーク・カウズラリッチ)
私のような立場、つまりヴィンテージ時計が大好きなのに、憧れのクラシックなモデルの多くに、価格の面で手が届かない人間にとって、今日はエキサイティングな日だ。美しいヴィンテージウォッチのエレガンスを持ちながら、現代の時計ならではの実用性、信頼性、装着感も備えていてほしい。
そして、カレンダー表示は12時位置のふたつの窓に、中央のポインターデイト、あるいはムーンフェイズの周囲に配した日付表示を組み合わせる方式が、今でも最も美しいと思っている。プレスリリースを見たとき、私は思わず身を乗り出した。そしてジェームズが腕に着けた写真を見たときにも、同じ反応をした。まるで自分に向けて時計を作ってくれたように感じられるのは、いつだってうれしいものだ。ブランドがこちらの声を聞いてくれているように感じる。たとえ購入しなかったとしても、自分の声が届いたと感じられるのはうれしい。
確かに5万ドルを超え、私が理想とするブレスレット仕様では7万ドル以上になる時計は、今でも私の予算を超えており、多くの人にとっても手が届かない。それでも8171や6062、さらにはパテック フィリップのRef.1526、2497、3448など、状態の良いヴィンテージを見つけるよりは、まだ現実味がある。
私と同じ立場にいる人なら、いつか運よくこの時計を手に入れられるかもしれない、と想像できるはずだ。ただし、1908の販売状況をひとつの指標とするなら、今回も決して簡単に購入できる時計ではないだろう。そもそもロレックスの時計は簡単には手に入らないが、パデローネはさらに希少になるはずだ。しかし購入できる人にとっては、突然、市場で最も魅力的なカレンダーウォッチのひとつを手にできることになる。しかもそのケース内部には、非常に多くの技術的成果が詰め込まれている。
詳細はロレックス公式サイトへ。
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