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オークションシーズンは疲れる。こんなことを年に2回もやっているなんて、自分でも信じられないほどだ。つい先月だけでも4つのオークションハウスから数千点ものロットが出品されたが、そのジュネーブのメインイベントを取材するだけで、我々はたいていそこで時間も気力もほぼ使い果たしてしまう。しかしジュネーブと香港(オークションハウスによってはジュネーブの前に開催され、また別のところでは後に開催される)のあと、いよいよニューヨークに舞台が移る。今年は、この街で出品される時計たちを少しのぞいてみることにしよう。
ほとんどのオークションハウスは、ジュネーブのオークションが終わるまでカタログを公開しない。そうすることで人々が次に開催されるオークションに出品される時計へ目移りし、入札を控えるのを防いでいる。つまりジュネーブで全力を注ぎ込むのを防ぎ、オークションハウスが望まない事態を回避するのだ。彼らは今すぐ入札してもらいたいし、あとでも入札してもらいたいのだが、その“あと”がやって来た。皆さんの手元にまだいくらか軍資金が残っていることを願うばかりだが、不思議なことに少しデジャヴュもある。見覚えのある時計がいくつか含まれているからだ。それでは、さっそく見ていこう。
フィリップス
香港での週末は、フィリップスにとって大成功だった。総額5150万ドル(日本円で約82億6000万円)という売上を記録したが、ローズゴールド(RG)製のパテック フィリップ Ref.2499 ファーストシリーズが1020万ドルで落札された。これは、アジアでこれまでに販売された腕時計として史上最高額を記録した。またフィリップスが今シーズン出品した3本の“大注目のパテック フィリップ”のうちの1本であり、そのラインナップは驚くほどクリーンで誠実な状態を保ったRef.1518によって締めくくられている。記録的な結果を残した以上、すべての条件が同じなら、選ぶべき時計はRef.2499だということになるのだろう。しかし、ほとんど手が入っていないように見える時計を推すのも自然だろう。
Photo courtesy Phillips
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既視感と言えば、ジュネーブで開催されたフィリップスのオークションにも、ツートンケースにシルバーダイヤルを備えたクロノメーター・ア・レゾナンス “スースクリプションが出品されていた。ツートンケース仕様は全部で5本しか存在しないため、それだけでも十分特別だが、そのうちシルバーダイヤルは3本だった。しかしピンクダイヤル仕様は2本しかないためニューヨークで出品されるこの個体のほうが、さらに希少ということになる。推定落札価格は100万ドル(日本円で約1億6000万円)超だが、もう1本のピンクダイヤル仕様は487万5500スイスフラン(日本円で約9億8000万円)で落札された。もちろん、それは私が“これがいちばん好きな仕様だ”と書いたせいに違いない。そのため今回の1本はきっと格安で落札できるはずだ。いや、冗談はこれくらいにしておこう。
クロノグラフは常に人気ロットであり、特にロレックスやパテック フィリップとなるとなおさらだ。ロレックス デイトナ Ref.6241 “ジョン・プレイヤー・スペシャル”は、私が好きな時計のトップ 5 に入るが、今回、市場初登場となる14K仕様のモデルが販売されており(こちらのほうがはるかに希少だ)、状態もきわめて良さそうに見える。また特別注文のRG製ケースにブラックダイヤルを組み合わせた素晴らしいパテック フィリップ Ref.5970も出品されており、推定落札価格は40万〜80万ドル(日本円で約6400万~1億2000万円)だ。この出品は同リファレンスが直近で記録したふたつの驚異的な結果に続くものだが、香港では、ユニークピースであるブルー・ソレイユダイヤルを備えたプラチナ製モデルが130万ドル(日本円で約2億円)超で落札され、さらに、マイケル・オーヴィッツ(Michael Ovitz)氏のために製作された特注品(シール付き未開封状態)は、それを上回る160万ドル(日本円で約2億5000万円)で落札された。これは同リファレンスの史上最高落札額であると同時に、同じオークションのなかで史上2位の結果も記録した。
Photo courtesy Phillips
少しばかり本題を後回しにしてしまっているかもしれない。というのも、フィリップスは私がこれまで見てきたなかでも最高のパテック フィリップ Ref.5004を出品しているからだ(私が生涯で最も好きなリファレンスに対する最高の賛辞だ)。これはパテック フィリップ初の量産型スプリットセコンド・クロノグラフ パーペチュアルカレンダーとして最初のモデルであるRef.5004のユニークピースであり、サーモンダイヤル、12時位置のブレゲ数字、そしてクロノグラフ用のタキメータースケールといった自分のためにRef.5004をオーダーするとしたら欲しくなる要素がほぼすべて揃っている。
さらにケースはホワイトゴールド(WG)製で、Ref.5004では最も希少な素材だ。そしてこの時計はエリック・クラプトンのために作られたものだ。かつては、彼の所有する別のRef.5004がオークションでの最高落札額記録を保持していましたが、その記録は昨年、マイケル・オーヴィッツの時計(こちらもトップ5に入る逸品)が150万ドル(日本円で約2億4000万円)で落札されたことで更新された。しかし今回の個体は、推定落札価格70万〜140万ドル(日本円で約1億1000万~2億2000万円)を軽々と上回るはずだ。
Photo courtesy Phillips
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リストをさらに下へ見ていくと、インディペンデントブランドは引き続き強い結果を見せると予想している。しかしジュネーブのオークションはきわめて充実した内容だったため、今回は少し落ち着いた展開になるかもしれない。もちろんF.P.ジュルヌも出品されており、トゥールビヨン・スーヴラン・アニバーサリー “香港”の“限定5本のうちの1本目”。推定落札価格は60万〜120万ドルだ(日本円で約9600万~1億9000万円)。
また最初の個体が市場に出て間もないなかで、2本目のロジャー・スミス シリーズ3も登場する。前回の個体は70万スイスフラン(日本円で約1億4000万円)強で落札されていることを考えると、30万〜60万ドル(日本円で約4800万~9600万円)の推定落札価格は控えめに感じられる。だが前回はより控えめで伝統的なデザインだったため、そちらのほうが評価の高い個体だったのかもしれない。またウルバン・ヤーゲンセンのミニッツリピーターとトゥールビヨンを搭載したユニークピースもきわめて興味深い。3本のみ製作されたうちの1本で、推定落札価格は12万~24万ドル(日本円で約1900万~3800万円)。ウルバン・ヤーゲンセンは前回のオークションでも好調で、なかでもプロトタイプのRef.2が50万8000スイスフラン(日本円で約1億円)で落札されている。今回のモデルはそこまで高額になるとは思わないにしても、あのムーブメントは本当に美しい。
サザビーズ
サザビーズ最大の話題は、オークションハウスがまたしても、映画『栄光のル・マン』でスティーブ・マックイーンが使用した来歴を持つホイヤー モナコを手に入れたことだ。しかし今回は前回よりも話がずっと明快で、疑いの余地が少ない。正直なところ、プレスリリースを見たとき、以前にも聞いたことがあるような気がして、少し読み飛ばしてしまった。『栄光のル・マン』に由来するモナコは、市場にいくつも存在している。我々は2024年11月にサザビーズで出品された前回の個体も取り上げたが、あの時計について詳しく検証してみると、実際には撮影用小道具の周辺にあった個体に過ぎなかった。それにもかかわらず、その時計は約140万ドル(当時のレートで約2億1000万円)で落札された。私からすると、それでも十分に驚異的な金額である。
Photo courtesy Sotheby's
今回は映画のプロップマスターが保管していた数百点に及ぶ資料、記録、署名入りの書簡などによって、実際にこのホイヤーをマックイーンが伝説的な映画のなかで着用していたことが証明され、来歴はしっかり裏付けられている。推定落札価格は前回と同じ50万ドル~100万ドル(日本円で約8000万~1億6000万円)だが、この時計の重要性は前回の個体とは比べものにならないほど高い。2024年よりもはるかに高値で落札されると予想されるが、ホイヤーはオークションで気まぐれな存在だし、ポップカルチャーのコレクターの動向も予想しづらい。良い結果になることを願っているが、もしそうならなかったとしても、それはひとつの教訓的な事例になるだろう。つまりある時計をめぐる曖昧で複雑なストーリーが、別の時計の評価にまで影響を及ぼしてしまうということだ。
Photo courtesy Sotheby's
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今年カルティエの時計を続々と出品しているサザビーズは、その膨大な出品数にもかかわらず、依然としてよい結果を維持している。今回私の目を引いたのは伝統的なカルティエのイメージとは異なる、やや変わり種のモデルたちだ。もしクラッシュ、サントレ、あるいはノルマルを探しているのなら、もう手遅れかもしれない。私が注目したのは、1946年製の興味深いトリプルデイトカレンダーだ。これは当時の別ブランドの時計を思わせるデザインで、なかにはルクルトとの共通点も見られる(実際、この時計の内部にはルクルトのサインが入っている)。先日、同僚がカルティエ クッサン バンブーが好きだと言っていたが、彼女が思い描いていたのはこのモデルとは全く違うものだった(だがその奇抜さがまた魅力的なのだ)。
また、カルティエとブエチェ・ジロッド(Bueche Girod)のペアシェイプウォッチも一風変わっている。ブエチェ・ジロッドとカルティエの関係は独特ではっきりしない部分が多く、それだけで1本の記事になるほどだ。こうした時計はカルティエ ニューヨーク以外ではまず見つからないだろう。最後に、カルティエ向けに製作されたオーデマ ピゲのカレと、ユニバーサル・ジュネーブが開発し、ジャガー・ルクルトによって供給されたムーブメントを搭載したカルティエ パリの懐中時計(スタンド内蔵)も出品されている。これらはいずれも、カルティエの複雑で入り組んだ歴史を探るうえで実に興味深い存在だ。
Photo courtesy Sotheby's
最後に取り上げたい時計たちに共通するテーマを見つけようとしたのだが、どうしても思いつかない。そのため、ここからは雑多な寄せ集めということにしておこう。まず(少なくとも私の知る限りでは)市場初登場となるRG製のサイモン・ブレット クロノメーター アルティザンだ。推定落札価格は10万〜20万ドル(日本円で約1600万~3200万円)だが、(いくつかの情報筋によると)最近プライベートオークションで取引された個体はどうやらそれを大きく上回る価格だったようだ。ヴィンテージ部門では、ロレックス “ビッグクラウン” Ref.5510にこれほど高い推定落札価格がつくことはめったにない。しかしオークションチームによれば、この個体は事実上“ニューオールドストック”だという。私は正直、その表現には少々うんざりしているが、この時計の面取りを見て欲しい。誰かに横から見られたことすらないかのような状態だ。推定落札価格が40万〜80万ドル(日本円で約6400万~1億2000万円)に設定されている理由も、おそらくそこにあるのだろう。そして最後は、ギュブランが販売したジャガー・ルクルトのレベルソだ。1930年代の個体となると、こうした時計はそう頻繁に目にするものではない。こちらの推定落札価格は、比較的現実的な1万〜2万ドル(日本円で約160万~320万円)だ。
Photo courtesy Sotheby's
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最後に、もちろん今回のオークションにも魅力的なパテック フィリップの時計が数多く出品されていますが、そのなかでも特に注目すべきものをいくつか挙げておきたい。まずレトログラード パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーター、トゥールビヨンを搭載した希少なRef. 5216Pだ。これはもともとあまり注目されず、製造期間も短かったリファレンスであるため、ユニークピースが40万〜80万ドル(日本円で約6400万~1億2000万円)という推定落札価格なのは妥当だろう。またパーペチュアルカレンダーとスプリットセコンドクロノグラフを組み合わせたRef.5951も珍しいが、同じムーブメントを搭載する後継機のRef.5372ほど当時は評価されていなかった。しかしそれは同時に希少であることも意味し、パテック フィリップの世界では、希少であることは特別であることを意味する。しかも現在の相場では、推定落札価格はRef.5004よりも低い。そう考えると、見逃す手はないだろう。
また30万ドルから50万ドル(日本円で約4800万~8000万円)の推定落札価格で、コインウォッチを手に入れることもできる。なぜそんなに高額なのか? それは、20ドルのダブルイーグル金貨であるのと、おそらく同時代(もしかしたら史上)で最も素晴らしいコレクターだったヘンリー・グレーブス Jr.のために作られたものであるからだ。さらに製造されたなかで3本目にあたるティファニーのサインが入ったRef.3448まで出品されている。パテック フィリップとしては、なかなか悪くない顔ぶれだ。最後に、似たようなブレゲ数字ダイヤルと夜光針を備えたRef.565とRef.96のペアにも注目する価値があり、どちらもケースコンディションは素晴らしい。だがRef.565にティファニーのサインが入っていることを考えると、この2本のなかで際立っているのは、やはりRef.565だろう。
最後になるが、このとてもクールなロレックス GMTマスター Ref.1675に触れないわけにはいかない。イエローゴールド製ケースにブラウンの“ニップルダイヤル”(ちなみに時計業界にあるニックネームのなかで私はこれが好きではない)を備えたモデルで、時計そのものとして見ても十分に魅力的だ。しかしこの個体は1969年公開の映画『イージー・ライダー』で、ピーター・フォンダ(Peter Fonda)が実際に所有し、着用していた時計だ。推定落札価格は5万〜10万ドル(日本円で約800万~1600万円)。正直に言うと、もし自由に使える5万ドルが手元にあるなら、私は入札していただろう。なぜなら単純にものすごく格好いいからだ。しかし同じオークションには映画『栄光のル・マン』のプロップマスター、ドン・ナンリー(Don Nunley)が所有していたもう1本も出品されており、推定落札価格は4万ドルから8万ドル(日本円で約640万~1200万円)だ。
クリスティーズ
大手3社によるオークションシーズンのプレビューも、いよいよ終盤に差しかかっている。そしてもちろん、クリスティーズにも触れておくべき大物がある。パテック フィリップ Ref.3448 “レッドドット”は実に美しく、そしてきわめて珍しい時計だ。さらに珍しいことに、この時計にはケースがふたつ存在する。その背景を簡単に振り返ると、1975年にアラン・バンベリー(Alan Banbery)氏がパテック フィリップと協力し、Ref.3448を改造してムーンフェイズ表示の代わりにうるう年表示を搭載した時計を製作した(この時計はセンツァ・ルナとして知られ、2021年に2905万香港ドル/当時のレートで約4億1000万円で落札)。その後、1981年にフィリップ・スターン氏がこのアイデアを発展させ、Ref.3563を製作した。これは赤いドットによってうるう年を表示しながらもムーンフェイズを維持したユニークピースだった。さらに3本目の時計が製作され、そして今回出品されるこの個体が4本目にあたる。
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前述のとおり、この時計はもともと力強いラグが特徴である標準仕様のWG製ケースで納品された。その後、顧客はこの時計をパテック フィリップへ戻し、ハンドメイドのチェーンブレスレット仕様へと改装してもらった。変わっていながらも魅力的だが、オリジナルのストラップでも十分魅力的だと思うので、もし私が購入するなら(80万ドル~160万ドル/日本円で約1億2000万~2億5000万円の見積もり額を誰かが前払いしてくれるなら)、元の仕様に戻してドレスウォッチとして着用するだろう。
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残りのクリスティーズのプレビューは手短に済ませよう。クールで珍しい時計に大金を費やしたいと考えているなら、すぐに目に留まった3つの時計を詳しく見てみる価値がある。まずはRef.5959Rだ。これはパテック フィリップ初の自社製クロノグラフムーブメントを搭載したリファレンスのなかでも、おそらく最も見かける機会の少ない仕様である。そう、パテック初の自社製クロノグラフはスプリットセコンドクロノグラフだったが、ケース径は33mmで、装着しにくいことから見過ごされがちだ。
だが15本しか製造されず、ほとんど市場に出回らないため、25万ドルから50万ドル(日本円で約4000万~8000万円)という価格は、おそらく誰かにとっては妥当な価格なのだろう。もっと珍しい時計をお探しであれば、なぜ奇妙な外観なのかを理解するのに少し時間がかかる時計はどうだろう? おわかりいただけただろうか。これはロレックス Ref.5028(センターセコンドとスモールセコンドを併載した通称“ダブルセコンド”)で、ケースサイズは36mmと大きめだ。この時計は2023年にモナコ・レジェンド・グループで最後に販売されたので、オーナーはそれほど長く所有したくなかったのだろう。
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最後にご紹介するのは、オーデマ ピゲの18KWG製ジャンプアワーだ。これはオーデマ ピゲが1928年にCal.10''' GHSMムーブメントを搭載して製造した時計のひとつで、今年初めにネオ フレーム ジャンピングアワーとして再発売されるきっかけとなったモデルだ。しかしこのモデルには、新モデルが旧モデルから取り入れた特徴的なラグがない。とはいえ、3万ドルから5万ドルという推定価格はかなり控えめだと思うし、私だったらこのヴィンテージモデルを選びたい。
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