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Essays 時計業界での最初の1年、ほかを圧倒していたあるブランド

慣れ親しんだ感覚を道標に歩んだ、私の時計業界1年目の記録。

世界最高のブランドは自らの世界を創り出し、私たちをそこへ誘います。私がこの考えに引かれたのは時計のことを真剣に考えるずっと前、ファッションを通じてでした。大規模な広告キャンペーンであれ、Instagramでじっくりと時間をかけてファンにさせる手法であれ、強力なブランドは静かに人を引き寄せます。何かに属していたいと願うのは人間本来の欲求であり、一流のブランドはそれをあからさまにすることなく、きわめて巧みに実現しているのです。世界観を構築するもっと派手で露骨な方法もありますが、私は常に、より控えめで長期的なアプローチこそが最も強力だと信じてきました。

ラルフ・ローレン氏個人のカルティエ タンク。Photograph by Will Holloway

 このことについて考えるとき、2015年にベンが取材したように、時計愛好家でもあるラルフ・ローレン(Ralph Lauren)氏のことが真っ先に思い浮かびます。マディソン・アベニューにある邸宅のようなフラッグシップストアに足を踏み入れるたび、レザーの香りや完璧なサテン仕上げを施したウッドパネルに包まれ、そこにあるすべてが欲しくなってしまいます。私のスタイルを形作ったファッションブランドは、同じ影響力を持つ時計ブランドに比べればはるかに若く、アメリカンクロージング界の長老格であるラルフ ローレンは、創業から約40年ほどです。私はかつて初期のトム ブラウンを愛用していました。このブランドの世界観の構築も、アメリカのファッション界における驚異的な躍進の原動力となったことは間違いないですが、ブランドの歴史としては、ようやくお酒が飲める年齢(編注;25年ほど)になったばかりです。多くの時計ブランドが背負っている膨大な歴史と比較すれば、どちらも赤子のように感じられます。

 多くの場合、私は製品そのものよりも、ブランドがどのようにストーリーを語るかに引かれます。何年も積み重ねられた歴史と伝統の上に築かれた時計業界では、さらに別次元の複雑さが加わります。ブランドは1世紀以上にわたる伝統と、現代的なメッセージとのバランスを取らなければなりません。これらは数シーズンではなく、数世紀にわたるブランドであり伝統なのです。そして複雑機構や素材、価格設定以上に、それこそが私たちが時計を愛する理由なのだと思います。

 こうした視点で、なかば無意識に業界を眺めていたとき、時計業界のプロフェッショナル側に足を踏み入れてすぐに私の心に刻まれたブランドがありました。オーデマ ピゲです。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー “150周年アニバーサリー”(Ref.26585XT)。Photo by TanTan Wang

 2025年は、時計にとって素晴らしい年でした。かつてヨーロッパの人々が夏に1カ月間休暇を取っていた頃が嘘のように、新作のリリースはより頻繁になりました。もちろん市場の変動はありましたが、本質的にこの1年は特別なものに感じられました。素晴らしい成果を上げたブランドを何十社も挙げることができますが(2025年のお気に入りを選んだEditors' Picksをぜひチェックして欲しい)、1年を振り返って熟考したとき、オーデマ ピゲは異なる理由で際立っていました。それは特定の新作や出来事ではなく、その一貫性によるものです。歴史に根ざしたメッセージを守り続け、イノベーションとヘリテージを融合させ、最初から最後まで驚くほど一貫した姿勢を貫いたのです。

 私にとって、2025年はル・ブラッシュを拠点とするこの時計メーカーに始まり、それで終わる1年でした。時計業界で働き始めた私にとって、オーデマ ピゲは常に参照点となりました。同ブランドは私より149年も長く時計の世界に存在していますが、時計学のプロとしての歩みを始めたばかりの私に対しても、その門戸が開かれていると思わせてくれました。偶然かもしれませんが、私の仕事の初日、チームはジョン・メイヤー(John Mayer)氏、ルーカス・ラッジ(Lucas Raggi)氏、そしてベン・クライマーとともに、同ブランドの新しいCal.7138を搭載したパーペチュアルカレンダーについて語る動画の撮影を行っていました。

 2月後半に発表されたこのモデルは、オーデマ ピゲが創業150周年の幕開けに明確な道標を立てたように感じられました。このキャリバーを紹介するのに、これほどふさわしい3人はいないでしょう。彼らの対話は時計を文化的文脈で捉えつつ、真の技術革新の土台に据えるという、希有なバランスを保っていました。もしこれが最初に提示されたトーンであるなら、この先に何が続くのか期待せずにはいられませんでした。その数週間前には、タンタンが150周年キックオフのためにル・ブラッシュへ向かい、その詳細をこちらでレポートしています。

Hodinkee Editor-In-Chief James Stacey and yours truly.

Watches & Wondersにて、HODINKEE編集長のジェームズ・ステイシーと私。

 入社初日から、私たちはすでに4月初旬に開催されたWatches & Wondersの計画を立てていました。以前の記事でも書きましたが、Watches & Wondersそのものは、最高の意味で圧倒される体験でした。入社して3カ月、遠くから憧れていたブランドたちがパレクスポという広大な(一時的な)大陸のなかに、ポップアップワールドとして実体化していました。その規模と密度は、ほとんど信じがたいほどだったのです。

 オーデマ ピゲはその長い歴史にもかかわらず、このショーに参加していませんでした。この状況は、興味深いことに2026年に変わるようですが、2025年の不在が距離感を感じさせることはありませんでした。年間を通じて同ブランドの存在感は至るところにあり、私はAP150の広告キャンペーンをあちこちで見かけるようになりました。私の近所であるブルックリンのウィリアムズバーグでは、小さな壁画の広告が1年中掲げられていました。その通りにある6つのビルボードのうち5つが次々と入れ替わるなか、同ブランドの広告だけは変わりませんでした。毎日のランニングでその前を通るたび、ジュウ渓谷を忘れるなという、静かで絶え間ないリマインダーとなりました。

ロンドンの新しいロレックス ブティックを詳しく見る私。Photo by James Malone

 月日が瞬く間に過ぎていくなか、新作時計の取材やサイトの運営と並行して、私は出張にも派遣されました。1年の大きなハイライトはHODINKEEでの最初の仕事であり、初めてのプレスツアーでした。入社2カ月目、私は3月にオープンしたロンドンのオールド・ボンド・ストリートにあるロレックスのブティックを訪れました。HODINKEEの親会社であるウォッチズ・オブ・スイス(Watches of Switzerland)がオープンしたこの店舗は、ドバイに次いで世界で2番目の規模を誇ります。6月には、H.モーザーとともにF1カナダGPを見るためにモントリオールへ飛びました。そこでエドゥアルド・メイラン(Edouard Meylan)氏とベルトラン・メイラン(Bertrand Meylan)氏が、アルピーヌF1チームやピエール・ガスリー(Pierre Gasly)氏とのパートナーシップについて語るのを聞き、画面越しに見ていたコンセプトが初めて実体を伴ったものになりました。

 その数カ月後、私は再びカナダへ向かいました。今度はチューダーとともにケベック・シティーを訪れましたが、これも今年のハイライトのひとつとなりました。チューダーが4年前にプロサイクリングチームをイチから立ち上げると決めたとき、疑問を抱く者も少なくありませんでした。しかし北米最大のサイクリングレースで彼らと週末を過ごし、私はその決断を理解し始めたのです。生涯のサイクリングファンとして、プロのレースを間近で見ることはそれ自体が夢のようでしたが、その世界が時計と自然に交差する様子は予想外であり、実際に目にすると完璧に納得がいくものでした。これらすべての経験が、業界全体をとおして気づき始めていたあることを確信させました。すなわち世界観の構築は、真の実体に裏打ちされて初めて機能するということです。

ロイヤル オーク RD#5。Photo by Mark Kauzlarich

 ブランドを直接目にすることで、すべてがより明確に響くようになりました。オーデマ ピゲとの物理的な接点はニューヨークにあるAP ハウスと、イギリスのマンチェスターに新しくオープンしたAP ハウスを訪れたことくらいで比較的限られていましたが、それでも私はブランドの視点に深く共鳴していると感じていました。最初、そのつながりはブランドの表現方法を通じて得られたものでしたが、最終的には製品そのものに行き着きました。Cal.7138を搭載したパーペチュアルカレンダーは単に技術的に優れているだけでなく、明確な意志表明のように感じられました。リューズですべての設定が完結し、直感的に操作でき、複雑機構がひしめき合った1年のなかでもまれなほどの思慮深さを持って設計されています。それは、きわめて複雑なものを、いかにして人間味のあるものにするかという古くからの問いに対する現代的な回答のように思えました。同じ哲学はRD#5にも貫かれています。クロノグラフという歴史的に厳格な機構を、第一原理から考え直したモデル。時計も、解決すべき課題も異なりますが、そこにある視点は同じでした。150周年を祝うブランドにとって、これらは決して勝利の余韻に浸るためのものではなく、さらなる勢いを感じさせるものだったのです。

 カレンダーが年末に差し掛かる頃には、私のなかで何かが変化していました。時計業界での最初の1年が終わりを迎え、この12カ月間に見てきたものを文脈化することに自信が持てるようになっていました。最初の圧倒されるような感覚は消え、静かにすっきりとしたものへと変わっていたのです。

『It’s Late』のセットに立つジョン・メイヤー氏。Photo by Mark Kauzlarich

 今年の最後の大きなイベントは、これまで以上に規模を拡大したドバイウォッチウィークでした。私は参加していませんでしたが、現場にはマークとアンディがおり、もしまだマークによるPhoto Report(パート1パート2)を読んでいないなら、それは必読です。そこではショーが正式に始まる前から、オーデマ ピゲはジョン・メイヤー氏を起用してイベント前夜に深夜のトークショーを主催し、そのトーンを決定づけました。もちろん前例はあります。10年近く前、彼は『The Late Late Show』で1週間のゲストホストを務め、数年後には私のInstagramでのお気に入りのひとつである『Current Mood』を配信していました。オーデマ ピゲのクリエイティブコンジット(ブランドに創造やアイデアを提供する役割)である彼以上に、この役を任せるのにふさわしい人物がいるでしょうか。正直なところ、これは天才的な演出だと感じました。同ブランドのCEOであるイラリア・レスタ(Ilaria Resta)氏、ルーカス・ラッジ氏、HODINKEEマガジン編集長のマライカ・クロフォードに加え、ブリン・ウォルナー(Brynn Wallner)氏、さらにはサッカー界のレジェンド、ズラタン・イブラヒモビッチ(Zlatan Ibrahimović)氏をゲストに迎え、ウィークが始まる前にすでに対話の形が作られていたのです。

 ニューヨークにいた私から見ても、ドバイの有名な豪華なパビリオンのなかでも、その物理的な空間は際立っていました。それは同ブランドが151年目に向けて加速し続けているという明確なシグナルでした。その予感は、レスタ氏がアンディ・ホフマンとともに年末の『Business of Watches』最終エピソードに出演し、同ブランドのWatches & Wondersへの復帰を含む2026年に向けての展望をほのめかしたことでさらに強まりました。そこには、長期的な視点で取り組む自信に満ちたブランドの姿があったのです。業界最大のショーに参加せずともこれほど強力な1年を過ごせたオーデマ ピゲがその場に復帰したとき、次に何が起こるのか想像せずにはいられません。

Roger Federer

今年の個人的なハイライトのひとつ、ロンドンでロジャー・フェデラー(Roger Federer)氏に会ったこと。Photo by James Malone

 業界での2年目を迎えるにあたり、2026年にはどのブランドが共感を呼び、混み合う市場のなかでどのように独自の空間を切り開き、どのようなイノベーションが見られるのかに思いを馳せています。その答えはやがて明らかになるでしょう。私がまずファッションで学び、そして今、時計で学んでいるように、よいブランドはあなたをその世界へと誘います。そして偉大なブランドは、あなたがそこに留まる理由を与えてくれるのです。

Header image by TanTan Wang