trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Essays 2026年は知識を深め、“なぜ”を追求するために

ウォッチメイキング、収集、そして歴史を語るうえで、“誰が(Who)”や”何を(What)“が重要だが、我々はもっと“なぜ(Why)”について考える必要があるだろう。

時計業界で働くようになってからの約4年間で、私が最も愛するようになったことのひとつは、我々が愛してやまないこの世界との関わり方の多様性と、人それぞれに異なる方法があるという点だ。自身の2025年を振り返り、2026年を見据えて執筆しようと机に向かったとき、まさにその事実が、私にとっての“時計の1年”が実際にはどのようなものであったかをどう表現すべきか迷わせる原因となった。2024年、私は“ただ時計を見るだけでは本質を見失う”と述べた。2026年へのカウントダウンが進むなか、私は気づいた。素晴らしいコレクションを作り上げることと同様に、時計を愛すること(そしてそれについて書くこと)において最も大切なのは、あらゆる要素を少しずつ取り入れ、何が本当に重要で、それは“なぜ”なのかを深く考察することだ。

Rexhep Rexhepi

人との交流は、今でも私にとってきわめて重要だ。例えば9月にジュネーブの旧市街にオープンしたブランドの新しいトレーニングワークショップでの、レジェップ・レジェピ(Rexhep Rexhepi)氏と、彼の愛妻アナベル・レジェピ(Annabelle Rexhepi)氏との出会いだ。

Rexhep

しかし時計自体も素晴らしく、時計がなければ、彼らと知り合う機会もなかっただろう。このふたつは密接に関係している。

Rexhep

彼らが築き上げた友人のコミュニティも同様だ。

 “なぜ”は、おそらくあらゆる物事において最も重要な部分だ。私がしばしば物事に対してなぜかと考えるのは、祖父が存命だったころに聞いておけばよかったと後悔している唯一の質問だからだ。彼は私に時計への愛、自分を幸せにしてくれたものを次世代に受け継ぐという伝統、そして情熱を共有しながら他者を思いやる心を教えてくれた。私が初めて発した言葉(冗談抜きで“チクタク”と言ったのだ)の対象となった時計を、彼は私がそれを持つにふさわしい年齢になったときに贈ってくれた。彼は娘婿(私の父)が家族の一員になると確信したとき、ロックフォード(Rockford)の懐中時計を贈った。それらの“なぜ”は明白だった。しかし私が後悔しているのは、彼がなぜ自分自身のためにそれらを収集したのかを聞かなかったことだ。

 この記事の初稿はもう少し、フェスティバス(編注;架空の記念日)の伝統に則ったような内容だった。時計業界に対する“不満のぶちまけ”から始まっていたのだ。だが、それはフェアではないだろう。私は時計を愛しているし、時計業界の人々のことも心から愛している。しかし情熱を持って、バラ色の眼鏡越しに時計を愛しすぎると、振り子は必然的に少しばかり冷めた見方へと振れてしまう。私はネガティブなトーンを抑え、励みになるような批評を提示し、自分自身にいくつかの目標を課すつもりだ。今年、私はもっと多くの“なぜ”を問いかけたいと思っている。

AP RD#5

2025年、価格設定は大きな話題となった。オーデマ ピゲのロイヤル オークは、32万5000ドル(日本円で約5000万円)の価値がある時計だろうか? ほとんどの場合、答えはノーであり、裕福なコレクターでさえ受け入れがたい数字だった。しかしその時計が客観的に見て素晴らしいものであることに変わりはない。このふたつの事実をどう折り合わせればよいのだろうか。

 ジェームズとアンディがそれぞれのエッセイで触れたように、2025年に価格設定は大きな問題となり、2026年もその状況は続くだろう。我々のなかに基準価格として強固に根付いている記憶が、この状況を悪化させている。我々の多くは値札を見て直感的に判断できるが、問題はその直感が過去に縛られていることだ。ノスタルジーでは解決できない。私は収集における“古きよき時代”(少しのあいだ貯金すれば、特別なものに“奮発”できると考えるのがそれほど理不尽ではなかった時代)を経験していないが、それでも自分が逃した時代について、そして現在の市場がいかに奇妙に感じられるかについて深く考えてしまう。

 今や、多くのブランドの“コンシューマー”モデルでさえ、高価すぎると感じることがある。ベンがグループチャットで、素晴らしいヴァシュロン・コンスタンタンを試着したあとに言ったように、その価格は「すべての新作時計が8万5000ドル(日本円で約1300万円)であることを改めて裏付けている」かのようだ。もちろんすべてがそうではないが、オメガやロレックスといった基幹ブランドの“エントリーレベル”の新作でさえ、数年前まではその数分の1の価格だったものが1万ドル(日本円で約150万円)に迫り、あるいは超えようとしているのを見ると、納得するのは難しい。2026年の一部は、価格に対するノスタルジーに浸るのではなく、支払った金額に対して何が得られるのかを批判的に見極めることに費やされるべきだろう。

Rolex John Mayer 2.0

イエローゴールドのロレックス デイトナの現在の価格は780万6700円で、私が7ヵ月前にこの記事を書いたときよりも約70万円高くなっている。今でもこの時計は大好きだが、市場にあるほかの選択肢と比較してどうなのかという議論はなされなかった。もしあなたが790万円を持っていたら、それをこの時計に投じるだろうか? その可能性は十分にあるが、議論する価値のあるテーマだ。

 また、数年前にベン氏から授かった知恵の言葉がある。多くの優れたアドバイスがそうであるように、私もおそらく長いあいだそれを無視してしまっていた。しかし最近、その言葉が私の頭のなかでますます大きく鳴り響いている。HODINKEEは“時計を買う人”のためのウェブサイトであり、“時計を売る人”のためのものではないということだ。我々は自身の希有な実体験に基づき、目にしているものが、購入する人々にとって価値があるかどうかを導き出し、文脈化するために存在している。ブランドが世のなかの感覚とズレてしまったときに、それを正当化するためにいるのではない。

 1年が過ぎるなかで私は気づいた。きわめて多くの時計を見て、多くの時計師に会い、多くの特別な体験を読者に届けようとすることの楽しさは、その対象が何であるか、なぜ重要なのかを具体的に示し、より広い文脈を理解しない限り、何の意味も持たないのだ。だからこそ私はより技術的なトピックについて執筆し、比較検討のための考察を提供し、目の前にある製品に対して責任を持つ人々からの直接的な引用を増やすようにした。それによって、ブランドやメーカーが約束や期待に対して責任を持つことにもつながる。

Breguet Expérimentale 1

ブレゲのエクスペリメンタル 1は、より広く普及すれば業界を変える可能性のある脱進機を搭載している。しかし我々は長年にわたり、そのような約束が浮かんでは消えていくのを何度も見てきた。ブレゲのCEO、グレゴリー・キスリング(Gregory Kissling)氏へのインタビューで、彼は新しい磁気脱進機にはさらなる期待が持てると語った。私はそれを注視していくつもりだ。

 おもしろいことに、2025年を振り返ってみると、そのような包括的な視点は私の1年の始まりでもあった。ステンレススティール(SS)製のヴァシュロン・コンスタンタン ヒストリーク・222というビッグニュースは読者に大きな反響を呼び、ふたつの異なる記事を通じて多角的にアプローチすることができた。同時に、1月のLVMH Watch Weekで学んだことを文脈的に理解し、執筆することも同じくらい楽しかった。オーデマ ピゲの新しいパーペチュアルカレンダー3本と、完全に新登場のムーブメントの発表は、ブランドにとっても業界全体にとっても重要な瞬間だった。

 しかし今振り返ると、2025年の後半に書いたオーデマ ピゲ RD#5に関する記事を誇らしく思う。ブランドと時計を適切な文脈に置くための歴史的で技術的な視点を、より深く掘り下げることができたと感じているからだ。同様の視点を持ったのは、ウルバン・ヤーゲンセンのUJ-1に関する考察で、顧客と同様に競合他社と比較した。また、ロジャー・W・スミスのシリーズ 6を単に説明するのではなく、スミス氏自身の言葉による解説を加えた。さらに、チタン製のカルティエ サントスについての記事では、まだ比較的小さな時計愛好家の世界だけにとどまらず、もっと広い世界でそれをどう位置づけるかを試みた。

Patek 5004A

2025年は、セイコーよりもSS製のパテック フィリップ Ref.5004を多く手にした。これは奇妙な指標だが、どちらも購入しているわけではない。それなら、いっそ型破りな探求に全力を注いでみてはどうだろう。2026年はパテック フィリップが主張する数字ではなく、5004Aを実際に何本製造したのかを解明したいと考えている。

 特に価格への敏感さについて触れた直後では、これらはすべてが適切な例ではないかもしれない。白状すると、私は自分では到底買えないような時計について語ることに最大の喜びを感じる。1年に200本ほどの時計について書き、その倍ほどの数に触れ、年に1、2本の時計を購入する私にとって、時計とは理論的な概念を、物理的に具現化する存在となる。それが500ドルであれ50万ドル(日本円で約8万であれ約8000万円)であれ、私は同じ基準を用いようと努めているが、500ドル(日本円で約8万円)のほうがより“現実味”がある一方で、高価なほうは考えるだけでも格段に楽しいのだ。

 私はよく、時計が(買い手であるあなたにとって)機械的に、審美的に、感情的に機能するかどうか、そしてそれを購入できるかどうかがすべてだと言う。それを脇に置いたとき、それらのトピックを取り巻く“なぜ”の探求(なぜ最近時計がこれほどまでに高価に感じられるのか、それが具体的な何かに裏打ちされているのかといった問いも含めて)はきわめて魅力的だ。そして2026年、我々は正しい質問を投げかけ、その理由をより深く理解できるようになりたいと思う。

1518

アウロ・モンタナーリ(Auro Montanari)氏は、最近開催された秋季モナコ・レジェンド・オークションに出品されたこの時計は、彼がこれまで見たなかで最高のパテック Ref.1518のひとつだと言った。なぜか? それはよい質問だが、たとえ問いかけたとしてもその答えを理解するための十分な知識が必要だ。力強いケース、力強いダイヤル、そしてフランスのホールマーク。それが何を意味するのか。その問いを恐れないで欲しい。今年はそれについても掘り下げられるかもしれない。

 私が“我々”と言うとき、それはHODINKEEだけを指すのではない。読者の皆さんも含めた全員のことだ。私がすべての人に対して答えられないこともある。自分自身の心のなかに答えを探さなければならないこともあるだろう。2026年、価格が受け入れやすくなることはまずない。どこに注目し、苦労して稼いだお金をどこに投資するか、多くの困難な決断を迫られることになるだろう。私はこの記事の初稿を、時計業界は清算の時を迎えているという言葉で始めたが、それは真実だと思う。

 あまりにも多くのブランドが、ここ数年の時計ブームのなかで価格設定に関して高望みしすぎた。自分たちがどうあるべきか、あるいは顧客が何を求めているかではなく、自分がなりたい理想像を基準に価格とブランドを紐付けたのだ。顧客もブランドも、無傷で済むものは少ないだろう。すべてを手に入れることはほとんどの人にはできない。しかし我々が手助けできるのは、関心を持ち続け、細部に対して批判的であり、愛するブランドが向上できるような形で伝えていくことだ。

AP Chronograph movement

幸運にも私はオーデマ ピゲRD#5の垂直に動く水平クラッチシステムを撮影し、その写真からGIFを作成することができた。しかし、もし実機を直接見ることができない場合はどうすればよいだろうか。

RD5 Gif

オーデマ ピゲRD#5に搭載されているムーブメントの特許図面(私がダウンロードし、色をつけ、GIFとしてイラスト化したもの)。

Breguet Patent

そして、ブレゲ エクスペリメンタル 1の脱進機。どのような名前で探すべきか、あるいはどこに出願されたかを知っていれば、オンラインで特許を調べることができるのをご存じだろうか。それは公開されており、自分で読み、仕組みを知ることができるのだ。

 とはいえ、2026年も素晴らしい年になると私は考えている。クールな新作が登場するのは間違いないだろう。時計に関する記事、ポッドキャスト、動画、Photo Reportなどを通じて、学び、知識を応用し、情報に基づいた決断を下し、時計について共に思慮深い対話を行う機会は山ほどある。2026年は、最新の技術革新がどのように機能するのか(あるいは機能しないのか)を自分なりに理解するために、特許を調査してみようという人が現れるかもしれない。

 昨年、2本のSS製パテック Ref.1518のオークションを興味深く見守った人なら、ヘルムート・クロット(Helmut Crott)博士の『The Dial』を購入して、ヴィンテージパテックのダイヤルがどのように作られているのか、(ダイヤル職人が意図した)修復と不誠実な改変の違い、そしてそれらすべてがいかにオークション価格に影響を与えるのかを深く掘り下げることになるかもしれない。また別の人にとっては、新作(とその価格)を単なるイメージや雰囲気だけでなく、市場の競合他社と比較することに時間を費やすことになるかもしれない。あるいは、熱中している時計やブランドについてより詳しく教えてくれるほかのコレクターに連絡を取ったり、時計師とのディナーや飲み会の約束を取り付けたりすることもあるだろう。

Rexhep CC2

このレベルの仕上げを施された時計を私が所有することは想像もできない。しかしそれに魅了されればされるほど、私は仕上げについて学び、“まあまあ”なものと、“とてつもなく素晴らしい”ものを分かつ違いは何かを研究するようになる。そして時計そのものではなく、知識を収集することだけで満足できるようになることは、おそらく精神衛生上も健全なことだ。しかし私がレジェップ氏にまだ聞いていないことがある。「なぜ彼は、これほどまでの手間をかけることをいとわないのだろうか?」

 断言できるのは、我々がこうした取り組みを重ねれば重ねるほど、価格や入手困難さに対する欲求不満は薄れ、本当に優れたものを際立たせる些細なディテールへの愛が深まっていくということだ。私にはわかる。私はその気づきと探求を日々実践しているからだ。愛と知識を深めるための“秘伝のソース”など存在しない。我々が(仕事であれ、そうでなくとも)多くの時間を費やしているこの狂おしくも愛おしい小さな機械の驚異をより見識のある愛好家として楽しむために、それは誰にでもできることなのだ。

 私はすでにいくつかのクールな記事のアイデアを練っている。ヴィンテージウォッチの歴史の一部を書き換えるようなコラボレーション記事、いくつかの動画、そしておそらく新たに技術面を深堀りした記事も含まれるだろう。2020年から2025年までが時計の世界が拡大した時期だったとするならば、2026年はそれが深まる年だ。私が時計を掘り下げ始めるこの旅に、ぜひ皆さんも加わって欲しい。